| 3.新臼歯部人工歯:システミックティース21(以後ST21)の開発について 我々は総義歯における人工歯の限界を追求することにより,「人工歯と生体との調和」を命題として取り上げ研究してきた.そこで,まず生体の加齢現象と生理的機能を人工歯に与え,さらに人工歯を生体現象に適応させていくことができないかを「人工歯がもつ生体現象の三大要件」とし,それを加味した「新人工歯の三大要件」を求め,さらにそれが生体に順応していくための「機能的咬耗の三大要件」を提示し,これらの要件を満たす新人工歯の開発を行った. (人工歯がもつ生体現象の三大要件) 1.生体の加齢に従い変化しないもの(不変)に対して → 生理機能の中心を与える 2.生体の加齢に従い変化するもの(変化)に対して → 加齢現象を与える 3.人工歯の材質(可変)に対して → 生体に順応し易い材質を与える また,これらの要件を加味した新人工歯に与えるべき三大要件を求めた. (新人工歯に与える三大要件の設定) 1.咬合重心:生理機能の中心であるパワーゾーンを人工歯に咬合重心として設定(不変)→ 咬合力の維持または増大 2.形 態:加齢現象に伴う咬耗や下顎の可動域を配慮した人工歯の形態(変化) → 義歯の安定および疼痛防止 3.材 質:機能に応じて順応しやすく,一定の耐磨耗性を有する材質であること(可変)→ 咀嚼能率の維持および著しい咬合高径減少対策 さらに,これらの新人工歯の三大要件(咬合重心,形態,材質)が義歯装着後に早期に生体と順応していくための機能的咬耗の要件を提示し,それを満たす人工歯を開発した. (機能的咬耗のための三大要件の設定) 1.咬合重心:咬合力集中化による咬耗の加速化 → 56重心 2.形 態:咬耗の起こり易い形態 → Cusp to fossa 3.材 質:咬耗の起こり易い材質 → 三種類の硬度差を付与した人工歯 4.ST21の特徴 1.咬合重心の設定 顎口腔系の中に,年齢や歯牙の有無にかかわらず下顎に対合する「上顎歯槽部のどこかに最も咬合力が発揮できる安定した必要最小限の咬合域がある」という仮説に基づいている.そして,これまでの臨床研究からその咬合域がほぼ上顎第二乳臼歯部(Eゾーン:永久歯では5の近心から6の近心舌側咬頭部)にあると結論づけパワーゾーンと命名されている.したがって、そのパワーゾーン上に上顎人工歯の56を配列することが咬合重心の設定であり,常に義歯の安定につながり,また最大の咬合力が発揮でき,新人工歯の三大要件の中で最も重要な要件であると考えている.その理論に基づいて開発されたものが連結された56の人工歯である.つまり、この人工歯の中にいわゆる咬合重心が設定されている. 2.形態の改良 これまでの人工歯は、咬合器上で特定の顆路角を中心とした動きにより人工歯の咬頭傾斜や咬合面形態が決められていることが多いように思われる.特に解剖学的形態をした人工歯には、加齢現象に伴う歯の咬耗や下顎の可動域の増大および顎提の吸収などは配慮されていない.まして,高齢者における顎関節の下顎頭は変形や吸収などが著しく,また非対称的な形態や大きさを有することも多い.したがって,顆路角を中心とした人工歯の咬合面形態の付与形式では、加齢によって生ずる生体現象が配慮されているとは言い難い.そこで、我々は加齢現象としての要件を咬合面形態に与える基準として,まず矢状顆路角を0度に設定した.そして今回は矢状切歯路角を10度に側方切歯路角を15度に設定し、上顎のスピーのカーブを呈する56の舌側咬頭頂によって下顎56の咬合面を形成した.基本的形態として、上顎は天然歯に近い準解剖学的形態を有し、下顎は非解剖学的形態で無咬頭である. 1) 上顎の頬側咬頭は解剖学的に近い形態を有するが,舌側咬頭の形態は顎提の吸収状態にあわせて適合しやすい様に,また下顎が円滑に動きやすい様に,そして咬合力が無駄なく発揮できる様に球面状形態を与えた.そして,配列時に左右対称性が得られ易くするため上顎の56は連結されている.また56の咬頭頂は咬合平面より少し挺出しているために,舌側咬頭頂を連ねるラインはスピーのカーブを呈する. 2) 下顎の咬合面形態は基本的にすべて無咬頭に近い平面状を呈しているが,56のみが機能時に上顎の56舌側咬頭と対咬接触するよう咬合様式を与えてあるため咬合面に皿状のくぼみ(ファンクショナル・ゾーン)を有しさらにその近心部にはブレーシング・イコライザーを付与している.47は中心咬合位以外には接触しないために平面状である. 3) 上下顎の対咬関係は一歯対一歯の関係にあり、また、中心咬合位においてはすべての上顎臼歯の舌側咬頭(機能咬頭)のみが下顎と接触し56は cusp to fossa,47は cusp to flat を呈する.また咬合面は機能時にも義歯が安定し易いように,リンガライズドオクルージョン(両側性平衡咬合)ができる形態を有している.その誘導面となる56のファンクショナルゾーンはパワーゾーン上に配列された56の舌側咬頭により形成されているのため,咬合様式はいわゆるパワーゾーン・リンガライズド・オクルージョンである. 3.硬度の違う3種の人工歯を使用 人工歯の硬度は、咀嚼能率を維持し,著しい咬合高径の減少を防止する上で重要な要因の一つである.同一硬度で硬度の低い材質は咬耗により咬合面の平坦化を起こしやすい.そこで、3種の違った硬度のレジン歯を組み合わせることにより、早期に機能的な咬耗が行われることにより咀嚼能率の低下を防ぎ,個人に応じた機能的咬合面形態が形成され易いようにした.そのためには,上顎の4567は下顎運動時の対咬接触の中心となるためにできるだけ咬耗は少なくする必要がある.そこで,上顎には最も硬度を有する硬質レジンを使用した.下顎56は上顎の56の咬合重心を受けるファンクショナルゾーンであり,また総義歯の歪を修正していくための咬耗ゾーンでもあるために上顎よりも硬度の低い硬アクリックレジン(またはアクリックレジン)を用いた.47はファンクショナルゾーンの変化に従いさらに適切に咬耗をさせるためにアクリックレジン(または軟アクリックレジン)を用いた. 5. まとめ 従来の「形態」を主体とした人工歯と異なり,「咬合重心の設定」を主体とし「形態の改良」「材質の改善」を三大要件とし,新人工歯の開発を行った.この人工歯は,人工歯としての限界を追求し,また術者の技量に頼らなくても早期に生体に適合し易く,また咬合調整が容易である全く新しいタイプの臼歯部人工歯であると考えている. 謝辞 稿を終えるに臨み,ご助言,ご協力をいただきました渡辺匡紀先生,百瀬恵治先生ほか日本生体咬合研究所の諸先生方ならびに鈴木 勝様,高橋正昭様,また山八歯材工業K.K.の方々に心よりお礼申し上げます. |