3.カルシウム系固着物を溶解するカルポン酸系洗浄剤の登場
 また,従来市販されている義歯音先浄剤の洗浄能力の疑問点や,特殊な素材を使用した義歯の洗浄の問題点も解決されている義歯洗浄剤が,ごく最近発売された.
 この義歯洗浄剤は,有機酸(カルポン酸)複合材で構成されていて,カルシウム系固着物やタバコタール色素を耳えり除くことを主眼に置いたものである.シリコーン系および生体用シリコーンゴムは多孔質であるため,唾液中および食物中の脂質や蛋白質の沈着やリン酸カルシウムを主体とした歯石様固形付着物質の付着による汚れは避けがたい.したがって,これらを溶解させられるということは,これら特殊義歯の洗浄において何よりの朗報である.
この義歯洗浄剤は,臨床歯科医師である櫻井次郎氏(大阪市福島区)のもとで研究・開発されたもので,3年の臨床試行を経てこのほど商品化された(Dr.Oh歯;ゼネラルクリーニングシステム・インターナショナル社.図61,62).これにより生体用シリコーンの義歯への応用において一つの障害となっていた“洗浄”については解決できるのではないかと思われる.
 なお,この義歯洗浄剤の詳しいデータについては,近日中に櫻井氏が学会誌などで発表される予定である.

■おわりに
 生体用シリコーン裏装義歯の過去4年間の臨床例から,多くの貴重なデータを臨床歯科・医師諸氏から提供いただいたことに深く感謝しながら,レジン床(樹脂)とシリコーンを化学結合させることを研究してきた.その成功から,また一つの新しい義歯床が完成した. 材質上,一つの障害となっていた“汚れやすさ”についても,新しい洗浄剤の出現で解決されようとしており,一般実用化に一歩近づいたと思える.ただ,生体用シリコーンの裏装部位による厚みの規定や色の調整については,今後の研究課題として残るのではないかとも考える.また現時点では,生体用シリコーンの入手と購買には多くの問題が残るので,全匡的な一般化にはまだ時間を要する.なお歯科医師のなかには,工業用シリコーンや歯科材料として販売中のシリコーンと,生体用シリコーンの違いについて,まだまだ理解されていない方もあり,残念な思いがする.くれぐれもご注意のうえ,生体用シリコーン裏装義歯の有用性をご確認いただきたい.
 また先日,当社のホームページでこの情報を知ったカナダの歯科医師・歯科技工士たちの来訪があり,彼らと現在の義歯における問題点を話し合う機会を得たので報告したい.

 

 現在アメリカにおいては,一歯以上の歯を喪失している忠者が1億1,300万人いて,さらに3400万人が総義歯患者であるという.カナダでも約1,000万人が一歯以上の喪失者で,今なお増加しつつある現状である.その多くの患者がこのような,“スーパークッション”のライニング材を探し求めているというのが,彼らがわざわざ来訪した理由であった.
 世界中どこでも,歯を喪失した人たちにとっては,補綴の選択肢の一つとしての義歯が心地よく自身の顎と一体となって末永く機能することが,大きな願望であることを再認識した.彼らに生体用シリコーン裏装義歯とシリコーン裏装について現物を見せてプレゼンテーションした結果,非常な感嘆を示され,筆者らも驚かされた.そして彼らからも,一日も早くこの技術を広く世界に広めることを約束させられた次第である.彼らもまた,義歯は咀嚼面側(咬合面)・粘膜面側と側面側(唇頬側)に大きく分かれ,それぞれの面において材質の使い分けが必要と考えていた.
 咀嚼面と側面については,これまでに多くの材料メーカーなどにより開発されてきたが,粘膜面側については,数十年前に理論が発表されて以来,立ち遅れている.粘膜面・粘膜面下の組織を過度な咬合力から保護し,咀嚼効果を下げない形で粘膜面が形成される材質
はシリコーンゴムが最適と発表されていたが,長期の応用に対して技術面で不可能とされてきたのである.しかし今回の技術の実用化により,過去の理論の追証とリベース材としての応用が実現されただけでなく,それらが三位一体(材質的に)となった新義歯の理論が,近い将来完成されるのではないかと考える.

稿を終えるにあたり,貴重な資料・アドバイス
および参考症例写真を提供していただいた臨床歯科医師諸氏に深く感謝いたします.また今回,技術指導ならびにご助言をいただいた大阪歯科大学客員教授の玉置敏夫先生,同大学客員教授であり同大学附属歯科技工士専門学校校長の末瀬一彦先生,株式会社P&G研究開発本部主任研究員の数田 孝氏,大阪府立産業技術総合研究所材料技術部高分子材料グループの坂本義章氏にも深く景仰の念をもって感謝致します(紹介氏は順不同).


参考文献
1)清見好伯ほか:生体用シリコーンを裏装した義歯の製作とその応用範囲.歯科技工, 27(5):435〜448,1997.
2)Hickey.J.C.ほか:バウチャー無歯顎患者の補綴治療(田中久敏・松本直之訳).医歯薬出版,東京,1988.
3)増原英一:先進歯科技術と新臨床−歯科医療新時代へのアプローチ.医歯薬出版,東京,1995.


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